アーティスト症候群
アートと職人、クリエイターと芸能人
人はなぜアーティストになりたがるのか
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書名カナアーティストショウコウグン
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著者大野 左紀子 著
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定価1,650円(1,500+税)
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ISBN9784625684067
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Cコード0070
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出版社
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出版年月日2008/02/08
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判型・ページ数4-6・260ページ
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在庫在庫僅少
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【著者からのメッセージ】
●世界との違和を生きる(2008/4/15)
アーティストには「自分はアーティストである」「アート活動をしている」という自己認識がありますが、それがないにも関わらず「アーティスト」と呼ばれる人々がいます。正規の美術教育を受けておらず、ただ自分の中の不可解な表出欲にだけ突き動かされて、次々と「何か」を作ってしまう。作ったものがアート作品かどうか、人にどう見られるかなど考えもしない。そうした人々を指して「アウトサイダー・アーティスト」と呼びます。
近年ではヘンリー・ダーガーが有名です。引きこもりに近い極度の孤独の中で、何十年にも渡って描き続けられた膨大な量の絵が死後に発見され、その荒唐無稽なファンタジー世界は多くの人々を驚嘆させました。
アウトサイダー・アーティストに共通しているのは、「世界と自分との不調和」という強い違和の感覚です。自分にとってこの現実世界にはリアリティが感じられない。そこで生の実感を得ることはできない。だから、仮構の世界を強固に作り上げようとする。それは自らが現実世界に押し潰されないための、必要に迫られた行為です。いわゆる「アート活動」ではないのです。しかしこの「世界と自分との不調和」の感覚こそは、アーティストの創作動機の根底にあるものだと思います。
20世紀前半のアーティスト達の中には、個々の表現で従来の美術を塗り替えようとしただけでなく、革命や社会運動に身を投じこの現実を変えようとした人々が多くいました。もちろん世界は容易には変わってくれないし、従って違和感も簡単には消えなかった。が、それはやはり、自らが現実世界に押し潰されないための、必要に迫られた行為だったでしょう。
そのような止むに止まれぬ無為の行為とそこに賭けられた闇雲なエネルギーを、他に名付けようもなく「アート」と言うのです。「アート」はアーティストと名乗る者が作っているから「アート」なのではない。そう考えると、アートやアーティストに対する見方も変わってくるのではないでしょうか。
●「遠くて近い」のはベールのせいではないだろうか(2008/3/5)
本が発売されて、こんな感想が入ってきました。
かつて漱石の『三四郎』はその物語性よりもまず、庶民にとって興味深くも遠い存在であった帝大事情を赤裸々に描いたことで広く受け入れられた。
「そういう世界があることはよく知っている。けれど知り合いにはいない」という、近くて遠いアーティスト業界を知るうえでも、大変楽しめる一冊となっている。
個人的には第三章にあたる「芸能人アーティスト」の項が痛快であった。藤井フミヤは「一見カッコよさげで実は中身のスカスカな言葉のコラージュ」、石井竜也は「なんかみんな騙されてないか」、工藤静香は「人の形態が中学生くらいの普通の女子の描く絵の延長線上」。どれもバッサリである。著者自身が美術作家であったからこそ書ける内容であろうが、それぞれのファンが読んだら本を破くのではないかと、勝手に心配している。”
美術業界は、芸能界に近い部分があると言われます。でも、テレビのワイドショーや週刊誌などで情報が広く浅く流れる芸能界に比べると、美術界のほうがベールに包まれて見える。それはコンテンツが流通する場や需要、供給の規模が違うというだけではなく、そこにベールに包んでおきたい/おいたほうが良いと判断される何かがあるからではないでしょうか。
「アーティスト」という名称が様々な分野で使われる理由の一つには、ベールをまといたい/まとわせたいという欲望があり、それがアーティストに憧れる若者の「被承認欲」と繋がっている、というのが本書で提示した見方です。
●なぜ人はアーティストになりたがるのか?(2008/2/15)
書店に行くと、画集や写真集、アート・カタログのコーナーがあります。初心者向けの技術入門書も目につきます。もう少し美術への専門的な関心を深めた人のためには、美術史の本や美術・芸術評論があります。
そのほか、最新のアート情報を伝える雑誌、古美術の雑誌、現代アートについての解説本、アーティストの書いた芸術論や手記、さまざまな美術の動向、運動についてレポートした本、美術業界の内幕を描いた本、子どもの美術の本、美術作品を訪ね歩く旅の本など、アートに関しての本は非常に多彩です。
そこではもちろん、「アート」とは美術、「アーティスト」とは美術作品を作る人のことです。そして概ね「やっぱりアートっていいものですよね」的視点で書かれています。「アート=いいもの」は前提なのです。でもほんとにそうなのか? というか、それしか視点はないのか?アートに関して。
モヤモヤしていたところに、編集者の人から質問を受けました。「最近いろんなジャンルで「アーティスト」と名乗っている人が多くないですか。なぜ人は「アーティスト」というものになりたがるんでしょう? そのココロは?」 おおそうだ。そこが盲点だ。よし、それを徹底分析してみよう。「アーティスト」という言葉が使われる場面を探していって、ミュージシャンから芸能人、美容師、テレビ番組まで俎上に上がりました。
書きながら、なぜ自分がかつて芸術家になりたいと思い、20年もやってなぜそれをやめたのかということも改めて考えました。むしろその問題が自分の核心にあって、そこに先の疑問がヒットしたと言えるかもしれません。 アート、アーティストについてさまざまな角度から検証しましたが、「やっぱりアートっていいものですよね」には着地しませんでした。この本が書店のどのコーナーに置かれるのか、楽しみです。
なぜ人はアーティストになりたがるのか? check □猫も杓子も『アーティスト』と呼ばれる状態にもやもやした ものを感じている。 □アーティスト/クリエイター/職人(志望)である。 □アートっぽいものが好きだ。 ひとつでもあてはまったら必読です。 (本書帯より) |
日本人はいつからアーティストと名乗り始めたか
80年代パルコ文化と横尾忠則の画家宣言 他
○アーティストだらけの音楽シーン
ワンランクアップさせてくれる魔法の言葉/MTVとともに輸入された称号 他
○芸能人アーティスト
芸能人のアート活動への微妙な違和感
[女流画家系]ジュディ・オング/八代亜紀/工藤静香
[画伯系]片岡鶴太郎/ジミー大西
[アーティスト系]
藤井フミヤ/石井竜也
○『たけしの誰でもピカソ』と『開運!なんでも鑑定団』
「アーティストである」という自己確認に必要なもの
[『たけしの誰でもピカソ』] 自意識のドキュメンタリー-「アートバトル」
[『開運!なんでも鑑定団』]フェティシズムの劇場
○職人とクリエイター
[アーティストと職人編] 「職人技」と「職人仕事」の違い
[アーティストとクリエイター編]『みずゑ』が開拓した創作少女趣味帝国
○「美」の職人アーティストたち
フローラル・アーティストと華道家/「カリスマ美容師」から「ヘア・アーティスト」へ/「メイクさん」からメイクアップ・アーティスト」へ 他
○私もアーティストだった
[美大受験予備校から芸術大学へ]西武美術館・アールヴィヴァン・リブロが参考書だった
[創作活動と美術業界] ビジネスとしてのアート/注文の多いアーティスト 他
○「アーティストになりたい」というココロ
「自分流症候群]基本をスルーさせる根拠のない自信
[自然体症候群]死なない程度の毒やエロ-女の子の「私」完結ワールド
[別格症候群]カリスマを目指すノウハウ-アーティストと就職
格差社会の中のオンリーワン幻想
大野 左紀子 著
1983年より2002年まで美術作家活動を行う。現在、名古屋芸術大学、トライデントデザイン専門学校非常勤講師。著書『モテと純愛は両立するか?』(夏目書房)ほか。http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/